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Floyd Rose Tremolo(フロイド・ローズ・トレモロ)とは 〜特徴と種類、違いについて解説〜

Floyd Rose Tremolo(フロイド・ローズ・トレモロ)
Floyd Rose Tremolo(フロイド・ローズ・トレモロ)

Floyd Rose Tremolo(フロイド・ローズ・トレモロ)とは、アメリカ出身のミュージシャンでありエンジニアでもあるフロイド・ローズ氏が1970年代に開発したギター用トレモロシステムです。

ギタリストのフロイド・ローズ氏は当時、シンクロナイズド・トレモロのアーミング時に生じるチューニングの狂いに頭を悩ませていました。

シンクロナイズド・トレモロのチューニングの狂いは主に、ペグでの弦のたわみやナットと弦との摩擦、ブリッジ本体と6点留めのビスとの接点の不安定さから生じます。

そこでフロイド・ローズ氏は、弦をナットとサドルでロックし、ブリッジ本体を二点で支持することでチューニングを狂いにくくしたトレモロシステムを考案します。それがFloyd Rose Tremolo(略称:FRT)です。

今回はそんなFloyd Rose Tremolo(以下、フロイド・ローズ)について見ていきます。

フロイド・ローズ・トレモロのメリット

  • チューニングが狂いにくい
  • 激しいアーミングが可能
  • 金属的でロングサスティーンな音質
  • クリケット奏法やピッキングハーモニクスが容易

チューニングが狂いにくい

フロイド・ローズの最も大きな特徴はアーミング時のチューニングの安定感です。

ナットとサドルの二箇所で弦をロックすることや、鋭いナイフエッジの二点のみでブリッジを支持することで、シンクロナイズド・トレモロのチューニングが狂う原因となっていた要素を排除しているため、一度しっかりとセッティングをしてしまえば激しい演奏をしてもなかなかチューニングは狂いません。

ナットとサドルの二箇所で弦をロックするその仕組みから、ダブルロッキング・トレモロとも呼ばれます。

激しいアーミングが可能

フロイド・ローズの特徴として、ブリッジ本体のサスティーン・ブロックの厚みがシンクロナイズド・トレモロよりも小さい点や、搭載ギターの多くにリセスと呼ばれるボディの落とし込み加工がされている点も挙げられます。

リセスと薄いサスティーン・ブロックによってブリッジ本体の可動域が大きいため、かなり激しくダイナミックなアーミングが可能です。

リセスリセス

演奏者によっては弦がダルダルになるまでアーム・ダウンしたり、アームだけでギターを持ち上げてアーム・アップしたりする方もいるほどで、その表現力の幅広さは数あるギターブリッジの中でもトップクラスと言えるでしょう。

一部のギターではリセス加工がされていないものもあります。アーム・アップはできませんが、アーム・ダウンは変わらずダイナミックにすることができます。

リセス加工無しで搭載されているFRTリセス加工無しで搭載されているFRT

金属的でロングサスティーンな音質

フロイド・ローズには比較的重い金属パーツが多く使用されており、一般的なブリッジと比較して振動がボディに伝わりづらいため、金属的でサスティーンの長い音質となります。

そのサウンドは、見た目の無骨さと相まってヘヴィな音楽で好まれる傾向にあります。

クリケット奏法やピッキングハーモニクスが容易

フロイド・ローズは、トレモロアームをはじくことでブリッジ全体を振動させ、音程を変化させるクリケット奏法が非常に容易です。また、金属的な音質のためピッキングハーモニクスも出しやすい傾向にあります。

フロイド・ローズ・トレモロのデメリット

  • 弦が切れるとチューニングがすべて狂ってしまう
  • 弦交換、調整が複雑
  • 弦ごとの細かな弦高調整ができない
  • 重量が重い

弦が切れるとチューニングがすべて狂ってしまう

フロイド・ローズのデメリットとして最も大きい点が、弦が切れるとチューニングがすべて狂ってしまうという点です。

フロイド・ローズは、弦の張力と背面のスプリングの張力を拮抗させ、ブリッジ本体がフローティングした状態でバランスを取っています。そのため弦が切れるとそのバランスが崩れ、切れた弦以外のすべての弦のチューニングも狂ってしまいます。

演奏中に弦が切れてしまった場合、演奏が困難になるほどにチューニングが狂ってしまうため、ライブなどでは特に注意が必要と言えるでしょう。

また、半音下げチューニングドロップチューニングにする際も、弦の張力の変化に合わせてスプリングの張力を調整する必要があるため、ステージ上で手早くチューニングを変えることがほぼできない点や、弦の張力の変化で簡単にチューニングが狂うゆえにユニゾン・チョーキングの音程が取りにくい点にも注意が必要です。

ちなみに、シンクロナイズド・トレモロを始めとする他のトレモロブリッジも、フローティング状態にセッティングしている場合は同様です。

弦交換、調整が複雑

続いて挙げられるデメリットが、弦交換、調整の複雑さです。

フロイド・ローズは構造上、チューニングすること自体に時間がかかる点や、スプリングの張力の調整の手間に加え、オクターブチューニングの調整にも非常に手間がかかるため、その弦交換と調整が他のブリッジに比べてとても複雑で大変であるという特徴があります。

その手間から、楽器店や楽器修理工房などでもフロイド・ローズの弦交換や調整の価格はその他のブリッジよりも高く設定されていることがほとんどです。

↓フロイド・ローズの弦交換と調整の方法は、以下の記事で画像付きで詳しく解説しています。

ストリングロック・スクリューを締めて
Floyd Rose (フロイドローズ)の弦交換と調整 ~楽器店リペアスタッフが徹底解説~Floyd Rose Tremolo(以下、フロイド・ローズ)は、弦をナットとサドルでロックすることでアーミング時のチューニングの狂いを...

弦ごとの細かな弦高調整ができない

フロイド・ローズには、一般的なトレモロ・ブリッジにあるようなイモネジによる弦ごとの弦高調節機能がありません。そのため、弦高調整はベースプレート本体を上下させることで行います。

弦ごとの弦高調整は、各弦で高さの違うサドルを使用すること、サドルの下に金属板を挟むことなどである程度は行うことができますが、ビンテージ系のギターに見られるような指板Rの大きな指板だと弦高のバランスが取れないこともあるので、後付けでフロイド・ローズを搭載する際には注意が必要です。

重量が重い

フロイド・ローズは前述の通り金属パーツを多く使用しているため、フロイド・ローズを搭載しているギターは、ボディ構造によっても変化はしますが、その総重量が重くなってしまう傾向にあります。

一般的なシェイプ、フロイド・ローズを搭載のギターで3kg前半の個体は多くないため、軽いギターが好みの方にはあまり向かないブリッジと言えるでしょう。

フロイド・ローズ・トレモロの種類

フロイド・ローズは、Floyd Rose社から発売されている製品の他に、Floyd Rose社以外のメーカーがライセンスを取得し生産している製品があります。いずれも多数のモデルがありますが、今回はその一部をご紹介します。

Floyd Rose Original

まずは本家フロイド・ローズ社より、フラッグシップモデルの「Floyd Rose Original」。登場時より様々な改良が加えられ、現行モデルは5代目のため「FRT-5」とも呼ばれます。

ドイツ製で、堅牢な作りと確かな工作精度で世界中のアーティストに支持されています。

Floyd Rose OriginalFloyd Rose Original

Floyd Rose 1000

こちらは韓国で生産されている廉価版モデルの「Floyd Rose 1000」。カラーによって2000、3000とモデル名が変わるため、総称して1000シリーズと呼ばれます。

「Floyd Rose Original」と外観はほぼ同じですが、サドルのエッジが角ばっていたり、使用されている金属の素材が違っていたりと、細かな仕様の違いによりコストダウンを図ったモデルです。

メーカー向けの商品のため単体での一般販売はされていませんが、10~20万円の価格のギターに多く採用されています。

Floyd Rose 1000Floyd Rose 1000

Floyd Rose Special

「Floyd Rose Special」はOriginal、1000と比べて最も廉価なモデルです。ベースプレートにSpecialの刻印がある点が特徴。

1000と同じく韓国製ですが、金属部に亜鉛合金を多く使用することでさらなるコストダウンを図っています。

こちらも一般販売はされていませんが、10万円以下のギターに採用されていることが多く、フロイド・ローズを気軽に試すことができるモデルです。

Floyd Rose SpecialFloyd Rose Special

Floyd Rose Non-Fine Tuner Tremolo

「Floyd Rose Non-Fine Tuner Tremolo」は、フロイド・ローズ初期のモデルである「FRT-3」の復刻モデルです。ファインチューナーが無い点が特徴で、現代ではロックナットを使用せずに搭載されることが主流のブリッジです。

Floyd Rose Non-Fine Tuner TremoloFloyd Rose Non-Fine Tuner Tremolo

Floyd Rose FRX

レスポールタイプなどのチューン・オー・マチックブリッジが搭載されたギターに後付けできるように開発された製品が「Floyd Rose FRX」です。

通常のフロイド・ローズはボディバック側にスプリングキャビティが必要ですが、「FRX」はブリッジ本体にスプリングが取り付けられているためスプリングキャビティが必要なく、少ない加工でギターに取り付けることができる点が魅力。

通常のフロイド・ローズと比べると音程の可変幅は小さいですが、ダブルロッキング・トレモロの高いチューニングの安定性は健在です。

Floyd Rose FRXFloyd Rose FRX

Gotoh GE1996T

Gotohがライセンスを取得し生産しているフロイド・ローズ・トレモロタイプのブリッジが「GE1996T」です。日本製で、「Floyd Rose Original」にも引けを取らない精度の高さが魅力的なブリッジです。

精度が高い点や、比較的入手がしやすい点、価格が「Floyd Rose Original」に比べ安い点などから、リプレイスメント用としては最も普及しているフロイド・ローズタイプのブリッジです。

Gotoh GE1996TGotoh GE1996T

Ibanez Edge

「Edge」はIbanezがフロイド・ローズ・トレモロを元に開発し、自社モデルに搭載しているブリッジです。ファインチューナーの位置が手に当たりにくいように改良されており、このブリッジを特に好んで使用するアーティストがいるほどに、世界中で支持されているブリッジです。

Ibanez EdgeIbanez Edge

Ibanez Edge Zero

「Edge Zero」はIbanezがEdgeをさらに改良し、ゼロポイントシステムという独自の機構を盛り込んだブリッジです。

ゼロポイントシステムでは、通常のバックスプリングの他にカウンタースプリングを備えており、弦が切れたり、一本だけチューニングを変えたりしてもカウンタースプリングの張力によって他の弦のチューニングはほぼ狂いません。

アーミングの感触がやや固くなったり、クリケット奏法ができなくなったりするというデメリットはありますが、非常に画期的なシステムとして評価されているブリッジです。

弦交換が楽になる点も大きなメリット。

Ibanez Edge ZeroIbanez Edge Zero

Floyd Rose Original と Floyd Rose 1000 の違い

ここからは、楽器店等で最も目にする機会の多いであろう「Floyd Rose Original」と「Floyd Rose 1000」について、その違いを解説します。

向かって右がOriginal、左が1000です。外観に大きな違いは無いように見えます。
Floyd Rose Original と Floyd Rose 1000 の外観

ベースプレート。上がOriginal、下が1000です。実は最も重要な差がここにあり、Originalより1000の方が厚みがあります。
ベースプレートの比較

ベースプレートの厚みに関しては金属の質の違いによるもので、1000はOriginalより使用している金属の強度が劣るために、あえて厚みを持たせて強度を確保しています。それに対しOriginalは非常に硬い金属を使用しているために薄く仕上げることができています

金属の強度というのは非常に大切で、1000ではナイフエッジが潰れてしまう症状が見られますが、Originalではほとんどナイフエッジが潰れることはなく、長い期間に渡って激しいアーミングに耐えることができます。

また、Originalは鋳造のためベースプレートの曲がっている部分の角が綺麗に出ていますが、1000は曲げ加工のためベースプレートの曲がっている部分に若干の歪みがあります。

Floyd Rose Originalが搭載されたギターか否かを見分けるには、まずこのベースプレートに着目すると良いでしょう。

続いてはサスティーン・ブロック。右がOriginal、左が1000です。どちらもブラス製ですが、表面の刻印やメッキの仕上げが違います。
サステインブロックの比較

サドル。右がOriginal、左が1000です。大きな違いはありませんが、Originalの方が角がよりすべらかに仕上げられています。
サドルの比較

ストリングロック・スクリューとサドルマウント・スクリュー。右がOriginal、左が1000です。どちらも1000の方はスクリューの頭にギザギザの加工がされています。また、ストリングロックスクリューの長さも違います。
ストリングロック・スクリューとサドルマウント・スクリューの比較

ファインチューニング・スクリュー。右がOriginal、左が1000です。Originalのほうがかなり薄く仕上げられています。
ファインチューニングスクリューの比較

以上の様に、「Floyd Rose Original」と「Floyd Rose 1000」ではかなりの相違点があります。Originalの方が耐久性や仕上げの面で優れていますが、価格もその分大きく違うため、ご自身の予算に合わせてどちらが搭載されたギターを選ぶのかを決めると良いでしょう。

さいごに

フロイド・ローズは、見た目やデメリットの多さから好みが大きく別れるブリッジですが、その独特なサウンドと、画期的とも言えるチューニングの安定感と表現力は他のブリッジでは味わえないほどに魅力的なものです。

ぜひ一本、フロイド・ローズ搭載のギターを手に取り、フロイド・ローズの世界を体感してみて下さい。

執筆者:Miha

ギター歴11年。
モダンでマニアックなギターが好き。
日々ギターについて研究中。
某大手楽器店にてリペアスタッフとして勤務した経験を活かして発信中。

愛器:Ibanez RG、MusicMan JP15、Skervesen Raptor、Mayones Regius、Lespky F Model、Fender Stratocaster、Gibson Les Paul Custom、Gibson ES-335、Paul Reed Smith Custom24

ABOUT ME
監修・執筆:稲垣 健太(ケンタトニック)
ギター辞典コード辞典ボイトレ・音楽用語辞典の運営者。

音楽関係の仕事の経験、ギター製作の経験、音楽教室に通った実体験をもとに、音楽に役立つ情報を発信。

■音楽歴
中学2年生の時にギターを始める
高校1年生の時にドラムを始める
関西外国語大学外国語で軽音楽部に所属し、ボーカル、ギター、ベース、ドラムを演奏
39歳からボイトレに通い始める
42歳でギタークラフトを始める
└2023年4月にギタークラフトの専門学校・ESPギタークラフトアカデミー大阪校(GCA)に入学
└ギター製作やリペアの専門技術・専門知識を習得中(2023年〜現在)
└ギター製作の経験をほぼ毎日日記で更新
ギタークラフト製作日記

■音楽関連の仕事歴
[2006〜2009年]
大手CD・レコード販売店でロック、ジャズの仕入・販売を担当。
[2011年〜]
フリーランスのWebライター・Webディレクターとして開業。
大手音楽教室からの委託でボイトレサイトの運営、ボイトレ記事の執筆・編集に携わる。

■音楽教室の通い歴
[1995〜2000年まで]
某大手ギター教室に通う
[1997〜2002年まで]
某大手ドラム教室に通う
[2020年〜現在]
某大手音楽教室のボイトレ・話し方コースに通い中
ESPギタークラフトアカデミーにて月3回プロギタリストによる演奏授業を受講

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Stilblu #036 / #039 /#099
g'7 special(g7-TLT Type 2S)
Nashguitars S-57
Tom Anderson(Drop Top Classic -Deep Tobacco Fade)
TMG Gatton Thinline
Fender Custom Shop 1956 Stratocaster NOS
Gibson USA Exclusive Model / Les Paul Standard 60s Honey Lemon Burst

所有ギター一覧

■製作したギター
ギタークラフトアカデミー第1作目:
ポリゴンライン
ギタークラフトアカデミー第2作目:
Stand-Alone
ギタークラフトアカデミー第3作目:
Thin-Marauder
ギタークラフトアカデミー第4作目:
Focus Point
ギタークラフトアカデミー第5作目:
Uroboros LP

■好きなバンド
U2、Sigur Ros、THE 1975、Mr.Children、the band apart、くるり、SIAM SHADE、VAN HALEN

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