Lepsky Guitars(レプスキー ギターズ)とは
Lepsky Guitars(レプスキー ギターズ)は、ロシアは南部、黒海に面するクラスノダール地方でカスタムギターを製作する工房。2009年創業で、モダンなオフセット・ギターを数多くラインナップするブランドである。
Lepsky Guitars の特徴
オフセット・ボディの採用
Lepsky Guitarsでは、すべてのモデルでオフセット・ボディが採用されている。
洗練されたモダンな印象の見た目となるだけでなく、座って弾くときも立って弾くときも体にフィットしやすくなり、高い演奏性を実現している。
柾目ネックの採用
Lepsky Guitarsでは、ほぼ全てのネック材に柾目で木取りされた木材を使用している。
柾目のネックはFender Custom ShopやSuhr、James Tylerなどのハイエンドギターにこぞって採用されており、木目がネックの形状に対して平行に通っていることから強度が高く、反りやねじれが発生しにくいため安定したネックになりやすいとされている。
実際、後述する筆者所有のギターにも目の詰まった柾目のネック材が使用されており、ネックの動きにくさは勿論のこと、音の立ち上がりやサスティーンも良好であると感じている。
ロシア製ピックアップ
Lepsky Guitarsでは、オーダーの際にARB PickupsやFokin Pickupsなどのロシア製ピックアップを選択することが可能。
いずれのピックアップも日本国内ではまずお目にかかることはないであろうピックアップで、特にARB Pickupsはポリマーネオジム磁石のマグネットやステンレス強磁性体のポールピースなど、素材に拘ったピックアップを製造するメーカーだ。
それらのピックアップを採用することができるのは、ロシアで製造するLepsky Guitarsならではの特徴だろう。
勿論、Bare KnuckleやSeymour Duncan、Dimarzioといったロシア製以外のピックアップも選択可能で、高い自由度を持ってオーダー可能な点も魅力的だ。
ハイクオリティなハードウェア
Lepskyのギターには前述のピックアップ以外にも、Jescar製ステンレスフレットや、Gotoh製ロックペグ、Graph Tech TUSQナットなど、他社では搭載する為にはアップチャージが必要となりやすい、数々の高品位なパーツが標準で搭載されている。
ブリッジもGotoh、Floydrose、Hipshot、Schallerなどが選択可能で、少ないアップチャージで理想のスペックを実現しやすいと言えるだろう。
Lepsky Guitars の代表的なギターモデル
Lepsky Guitarsの代表的なギターモデルをいくつかご紹介。
F Model
ダブルカッタウェイ、段差付きヘッドのデタッチャブルネック(ボルトオンネック)、24フレット仕様。
スケールは25.5インチで、適度な厚みの1ピースネックを採用。モダンとトラッドを融合させた同社で最もスタンダードなモデル。
S Model / T Model
同社で最もトラディショナルな仕様のモデル。どちらのモデルもトラッドながらもLepsky独自のオフセット・デザインのボディやウエストカット、エルボーカットによって高い演奏性を実現している。
Lepsky S Model
Lepsky T Model
Dominator
F Modelを基調に、角度付きの両連ヘッドを採用した薄いシェイプの5ピースネックや、16インチのフラットな指板を採用したよりモダンなモデル。多弦やマルチスケールも選択可能で、ヘヴィなサウンドを意識した仕様だ。
Lepsky Dominator
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Element / Gravity
それぞれDominatorのボディトップにベベルカット、アーチ加工を施したモデル。
Lepsky Element
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Lepsky Gravity
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Lepsky F Model を徹底解説

ここからは、Lepskyのスタンダードモデルである F Model について、筆者所有の個体を元に詳細に解説していく。Lepskyのギターの魅力が少しでも伝われば幸いである。
スペック
仕様については以下の通り。
Lepskyでは仕様によってベースモデル名の後にProや+、Customといった単語が加えられる。こちらの個体はローステッドメイプルネックを示すProと、トップ材が貼られていることを示す+が加えられ、F Model Pro+ というモデル名が正式名称となっている。
モデル | F Model Pro+ |
---|---|
スケール | 25.5'' |
ボディ | 5A Quilted Maple / Alder |
ネック | Roasted Maple 1Piece |
ブリッジ | Floyd Rose Non-Fine Tuner Tremolo |
ペグ | Gotoh SG381-MG-T |
ピックアップ | Bare Knuckle Aftermath |
コントロール | 1 Vol,1 Tone,5way Mega SW |
木材
木材はすべて厳選された極上の材が使用されている。
オーソドックスな木材は勿論、ウェンジ、ウォルナット、ブビンガ、ブラックリンバなど、様々な材が選択できるため、オーダーの際はこだわりたいポイントだ。

5Aの名に恥じない、深くワイドな杢が非常に美しいキルトメイプルのトップ。ドロップ・トップによって貼り付けられており、Ocean Burst Finishと呼ばれるカラーと相まって見る者に強烈な印象を与える。

バックのアルダーもハイレベル。虎斑と呼ばれる杢が全面に無数に走り、見る角度によってキラキラと表情を変えるその姿はまさにエキゾチックアルダーと呼べるだろう。

ネックは柾目のローステッドメイプルを使用。非常に細かく目の詰まった材で、一見して良材であることがわかる。
シェイプは癖のないCシェイプで、ストレスのない演奏を可能にしてくれる。スカンクストライプはウォルナット。ネック材にぴったりと埋め込まれている。
木工
筆者が最も感動した点がこの木工である。
製作者のこだわりが随所に感じられるとともに、いずれも高い完成度であるため是非実際に見て感じていただきたいポイントだ。

ヘッドはF社のヘッドをアレンジしたようなデザイン。真っ直ぐな木目にレーザー刻印のロゴがクール。
トラッドなシェイプだが、1~3弦と4~6弦でポストの高さの違う、Gotoh製のロックペグを使用することでテンションピンを不要とし、デザイン性とチューニング精度の向上に成功している。
トラスロッドの埋木やナットは寸分の狂いもなく接着されていて非常に好印象だ。

指板はネックと一体のローステッドメイプル。ピカピカのJescar製ステンレスジャンボフレットが打たれている。フレットエッジの処理も丁寧で、演奏性は抜群。
通常、ネックと指板が一体となった1ピースネックではバインディングが無いために、指板サイドからフレット溝が見えてしまうものが多いが、こちらはフレット溝が見えないように溝切りされている。
また、ポジションマークにはエボニーが使用されている。実際に見ても真っ黒のためほぼわからないが、細かなこだわりが感じられる点だ。

最も見ていただきたい点がこのピックアップ・キャビティ。通常、ピックアップ・キャビティの深さは20mm程度必要であるが、このギターでは約14mmしか掘られていない。浅すぎて弦とピックアップが接触しかねない深さだが、ポールピースが当たるところのみを一段掘り下げることで浅いキャビティながらピックアップの搭載を可能にしている。
ボディの切削量をギリギリまで減らすという、Lepsky Guitarsならではのこだわりなのであろう。ハイエンドギターメーカーは数あれど、ピックアップ・キャビティの底面にまでこだわっているメーカーを筆者は他に知らない。
また、ビス穴が舐めないように受けのパーツが埋め込まれているのも嬉しいポイントだ。こういった見えない所にまで気を配っている点について筆者は最も感動を覚えた次第である。
ただ、キャビティの寸法がギリギリであるゆえ、製造時に搭載されているピックアップよりも厚みのあるピックアップは搭載できない場合がある。ハイパワータイプなどの、厚みが大きいピックアップに交換する際は注意されたい。

こちらも非常に精密なキャビティ。スプリングハンガーに合わせてキャビティの幅を変えている点も、前述のピックアップ・キャビティと同様のこだわりなのであろう。ここまでするか、と思わず声を漏らしてしまいそうだ。

スイッチやポットなどを格納するコントロール・キャビティ。こちらも、パーツの載る部分を落とし込むことで木材の切削量を最低限に留めている。ビス受けも当然の様に埋め込まれており、パネルを開閉する際も安心だ。

デタッチャブルネック(ボルトオンネック)の要であるネックジョイント部では、ピッタリとネックがボディにはめ込まれている。あまりにも隙間がないため、ネックを外す際はかなりの慎重さを要するほどであり、木工精度の高さが伺えるポイントだ。
ヒール部は大胆に丸められてはいないが、十分な演奏性が確保されており、24フレットまで無理なく運指が可能。演奏性を確保しつつ木材切削量を減らす、そのバランスが絶妙である。

ネックのエンド部は、ボディ側のネックポケットのR面とピックアップ・キャビティに面する面で段差加工がされている。機能面だけで言えば段差なしでも問題はないが、この加工によって指板の角がきれいに立って見える様になる。細かいながらも素晴らしい設計だ。
また、1ピースネックでは珍しく、ネックを外さずにトラスロッド調整が可能なホイールナットが採用されている。そもそも、指板一体の1ピースネックで24フレット仕様というのも非常に珍しいと言えるが、いずれにせよ調整が非常に楽になるのは嬉しいポイントだ。
ハードウェア
当然ながらハードウェアにも抜かりは無い。全てにおいて高品質なパーツが採用されている。

Gotoh製。Made In Japan。ダイヤルによって弦をロックすることでチューニング精度を向上させている。弦交換が楽になる点も大きな恩恵だ。

Graph Tech社のTUSQ製。このギターのナットは少し特殊な形状のナットで、コンペンセイテッド・ナットと呼ばれる弦のピッチの補正機能を有したナットだ。特にローフレットでのコードの響きの改善が顕著で、楽器全体の精度の向上に一役買っている。

Floyd Rose Non-Fine Tuner Tremoloという、現行のFloyd Rose Originalの前身となったブリッジの復刻版が搭載されている。ファインチューナーが無いため、現代ではロックナットを使用せずに通常のシンクロナイズド・トレモロと同様に扱うことが一般的なブリッジだ。
リセスと呼ばれる、ブリッジの落とし込み加工がされているためブリッジの可動域がかなり大きい。Floyd Rose Originalには及ばないがかなり派手なアーミングが可能だ。言うまでもなく、リセスもブリッジにピッタリの精度で掘られている。

ピックアップには英国のハンドメイドピックアップブランド、Bare KnuckleのAftermathを二発搭載。元々はSeymour DuncanのSH-2N,TB-4が搭載されていたが、この点に関してだけは筆者が手を入れた。
素晴らしく速い立ち上がりと、分離感の良さが得られるピックアップで、Lepskyの高い精度でと相まって極上の歪みサウンドが得られる。クリーンもきれいで文句の付け所のないピックアップだが、いずれはARBピックアップも試してみたいところだ。
余談ではあるが、Seymour DuncanのNazgulを搭載しようとした所、前述のキャビティの深さの関係で搭載できなかった。

コントロールは1ボリューム、1トーンに5wayセレクター。一般的に見えるが、セレクターにはSchaller製のメガスイッチが採用されており、ハムバッカーの4つのコイルを駆使した多彩なサウンドが出力可能だ。
ポットはALPHA製。配線は非常に美しく、丁寧に塗布された銅の導電塗料によってノイズ対策も完璧だ。
付属品

どちらも高級感があり所有欲を満たしてくれる。が、ロシア語で書かれているため残念ながら筆者はほとんど読むことができない。


純正ケースはギグバッグ。軽量だが厚みは十分でしっかりと楽器を保護してくれる。ネックピローもついており使用していて非常に安心感を感じられるケースだ。ポケットのマチがほぼ無く、あまり小物を収容できない点が玉に瑕。
サウンド
肝心のサウンドについては、非常にタイトで分離感のある現代的なサウンドのように感じる。癖は少ないが、バイト感のある歪みと透き通ったクリーンサウンドは大概のことはこなしてくれるであろう。ピッキングへの反応も良いため、弾いていて非常に心地よい。作りの精度の高さがここまでサウンドに出るものなのかと、とても勉強になった次第である。
オーダー方法
2025年9月現在、メーカーホームページより直接コンタクトを取ることでオーダーすることが可能。オーダーの流れを以下で簡単にご紹介。
モデルの選択

ホームページの Custom Shop ページからモデルを選択。
仕様の決定

細部の仕様について選択し、仕様を決定する。S Model、F Modelに関しては、Pre-Orderページより実際の仕上がりイメージをシミュレーションしながらの選択も可能。(選択可能なオプションに制限あり)

オーダーフォームの送信

仕様決定後、Orderボタンをクリックし必要事項を記入後、オーダーフォームを送信。2025年9月現在、スタンダードな仕様だと約2,000ドルでオーダー可能。
仕様、見積もりの確認
オーダーフォームで送信したアドレスにメーカーからメールが送信されてくる。その後、メールで数回やり取りの上、仕様と価格の見積もりについて確認。使用言語は基本的に英語だが、翻訳アプリなどで十分対応可能だ。
デポジットの支払い
仕様と見積もり額に問題がなければ、50%の前金を支払い正式にオーダー。支払い方法は国際送金のほか、PayPalも使用可能。
完成
完成連絡後、残金を支払いギターが発送される。2025年9月現在、納期は約6ヶ月。
日本への配送にかかる時間は1週間から2週間程度。到着後、配送業者より通関手数料の請求が来る場合があるので、請求があった場合は支払う。
総評
Lepsky Guitarsのギターは細部にまでこだわり抜かれた素晴らしいギターで、その設計思想や工作精度には目を見張るものがある。他の工房系ブランドと比べ、比較的安価でオーダーでき、納期も短めであるため、機会があれば是非一度手に取っていただきたい。
ギター歴11年。
モダンでマニアックなギターが好き。
日々ギターについて研究中。
某大手楽器店にてリペアスタッフとして勤務した経験を活かして発信中。
愛器:Ibanez RG、MusicMan JP15、Skervesen Raptor、Mayones Regius、Lespky F Model、Fender Stratocaster、Gibson Les Paul Custom、Gibson ES-335、Paul Reed Smith Custom24