ギターメンテナンス・リペア

Floyd Rose (フロイドローズ)の弦交換と調整 ~楽器店リペアスタッフが徹底解説~

ストリングロック・スクリューを締めて

Floyd Rose Tremolo(以下、フロイド・ローズ)は、弦をナットとサドルでロックすることでアーミング時のチューニングの狂いを少なくし、派手なアーミングを可能にした画期的なブリッジです。
その反面、弦交換や調整はフロイド・ローズのデメリットとして挙げられる程に複雑で面倒とされています。その手間からフロイド・ローズ搭載のギターを選ぶことを避ける方もいらっしゃるでしょう。

ですが、慣れれば簡単に調整できるようになりますし、何よりもしっかりと調整されたフロイド・ローズの使い心地は素晴らしいものですので、ぜひご自身で調整していただきたいところでもあります。

今回はフロイド・ローズの中で最も基本的なモデルであるFloyd Rose Originalを使用し、フロイド・ローズの弦交換と調整の方法を詳しく見ていきましょう。

フロイド・ローズの特徴や種類は以下の記事で詳しく解説しています。

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用意するもの

必要なもの今回必要なものは以下の通りです。

六角レンチ(3mm、2.5mm)
SHRED NECK(クロスでも可)
ストリングワインダー
ニッパー
プラスドライバー
チューナー
150mmスケール

いずれも一般的なもので問題ありませんが、六角レンチに関しては楽器購入時についてくるL型よりも、ドライバー型の方が作業効率が良いです。また、必須ではありませんが、記事内ではイントネーション・アジャスターと呼ばれる工具も使用しております。どちらも頻繁にフロイド・ローズの調整をされる場合は、あると非常に便利なアイテムです。

↓詳しくはギターメンテナンスアイテムの記事でも解説しています。

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弦交換

① 弦を外す

まずは古い弦を外していきます。が、いきなり弦を緩めるとブリッジが背面のスプリングの張力でボディへと沈み込んでしまいます。

ボディに沈み込んでしまったFRTボディに沈み込んでしまったFRT

そこで、ブリッジとボディの間にSHRED NECKという専用の治具を挟み、ブリッジが沈み込まないようにします。これで弦を緩めてもブリッジが沈み込むことはありません。

SHRED NECKを使用
SHRED NECKがない場合はクロス等で代用も可能です。

SHRED NECKの代用としてクロスを使用
3mmの六角レンチでロックナットを外します。

ロックナットを取り外すペグを回して弦を緩めます。ストリングワインダーがあると便利。

ストリングワインダーで弦を緩める弦をニッパーで切ります。切る場所はどこでもいいですが、9フレット周辺で切るとちょうど弦の長さの半分くらいの位置で切れるのでおすすめ。

弦を切る弦を切ったタイミングでヘッドのテンションバーを外してもOK。テンションバーを外すと弦を張りやすくなりますが、付け外しを繰り返すとビスの頭やビス穴をなめてしまう場合があります。

テンションバーは弦の張力による大きな力を常に受けるパーツですので、トラブルを避けるために筆者は基本的にテンションバーは外さずに作業をしています。

テンションバーを外す

3mmの六角レンチでストリングロック・スクリューを緩め、弦を外します。ストリングロック・スクリューを緩め、弦を外す弦を外した後、ストリングロック・スクリューを緩めたままにしておくとインサート・ブロックが外れてどこかに行ってしまいやすいです。弦を外したらストリングロック・スクリューを軽く締め、インサート・ブロックを固定しておくと良いでしょう。

サドルから外れてしまったインサート・ブロックサドルから外れてしまったインサート・ブロック

② 掃除

クリーニング用品

弦を外したら、是非掃除も一緒にしてしまいましょう。弦交換のタイミングは、ピックアップや指板、フレット、ヘッドトップなど、普段は弦が邪魔で掃除しにくい場所を綺麗にする格好の機会です。

ポリッシュやコンパウンドで汚れを落としてギターをピカピカに!

③ 弦を張る

では、弦を張っていきましょう。

まず、弦を張る前に弦のボールエンドをニッパーで切っておきます。この時、6〜4弦は弦の巻き始め(弦が太くなっているところ)を少し残して切ってください

6~4弦のボールエンドの切り取り方
1〜3弦は、弦の巻き始めを全て切り落としてOK。
3〜1弦のボールエンドの切り取り方

弦をサドルに差し込み、3mmの六角レンチでストリングロック・スクリューを締めて固定します。弦を固定

この時、締めすぎるとインサート・ブロックが割れてしまうことがあるので締めすぎは禁物。ドライバー型の六角レンチで締め込んだ時ぐらいの力加減が丁度良いです。

割れてしまったインサート・ブロック割れてしまったインサート・ブロック

ペグを回して弦を張ります。ヘッドのテンションバーをつけたままの場合は、弦を通す時に弦の先を少し曲げておくとテンションバーの下を通しやすく、またヘッドに傷を付けにくいです。

弦を少し曲げてテンションバーの下に通す

テンションバーを外した場合は、弦を張ったタイミングでテンションバーを取り付けておきます。テンションバーは、弦がナットにしっかりと押し付けられ、ナットの曲面にピッタリと接するようになるまで下げるのがベスト。

テンションバーの高さ調整

④ チューニング

チューナーを使ってチューニングをします。6弦から1弦までチューニングした後、再度チューニングを行い全弦のチューニングがしっかりと合うまで繰り返してください

チューニング

チューニングはこの先の調整でも何度も行うことになります

ポリフォニックチューナーを使用すると、6弦同時にチューニングを見ることができるため効率的ですのでおすすめ。

また、新品の弦は伸びやすいため、チューニングの際に弦を手で適度に引っ張り、先にある程度弦を伸ばしておきましょう

弦を伸ばす

チューニングが安定したら、これで弦交換は完了です。

調整

①ネック反り調整

まずはじめに、ネックの反りの調整をします。

ネックの大まかな状態は、チューニングを合わせた状態で2フレットと16フレットを押さえ、7フレット付近のフレットと弦の隙間を見て判断します。この時、ほんの少し隙間がある状態がベスト。隙間が大きければ順反り(指板側にネックが湾曲している)、隙間が無ければ逆反り(グリップ側にネックが湾曲している)です。

ネックの反りの確認

順反りの場合はトラスロッド・ナットを時計回りに、逆反りの場合はトラスロッド・ナットを半時計回りに回してネックの反りを調整します。

※ネック反り調整を行うためには、ネックの状態を的確に判断し、適切な対処ができるだけの経験と知識が必要です。不安な場合は専門家に見てもらった方が良いでしょう。

②フローティング調整

次に、ブリッジのフローティング調整です。ブリッジを横から見て、ブリッジのベースプレートとボディトップ面が平行になるように調整します。

ブリッジのフローティング調整

ブリッジのフローティング量は、裏のスプリングの張力を変化させて調整します。ブリッジが沈み込んでいる場合はビスを緩めて、浮き上がっている場合はビスを締めて下さい。

背面のスプリングの調整

チューニングが合った状態で、ブリッジのベースプレートとボディトップ面が平行になるまで何度も繰り返しましょう

浮き上がった状態のブリッジ浮き上がった状態のブリッジ
沈み込んだ状態のブリッジ沈み込んだ状態のブリッジ

③弦高調整

続いて弦高を調整します。

弦高は12フレット上で、フレットの頂点と弦の下との距離を150mmスケールを用いて測ります。6弦側で2.0mm、1弦側で1.5mmの高さを標準とし、これよりも低ければ低めの弦高、高ければ高めの弦高とすることが一般的です。

3mmの六角レンチでブリッジのスタッドを回し、ブリッジ本体を上下させることで好みの弦高になるように調整します。

弦高調整

ブリッジを上下させると、チューニングやブリッジのフローティング量も変化するため、適宜フローティング量とチューニングを確認し、必要であれば再度調整してから弦高を測るようにして下さい。

今回は6弦側で1.8mm、1弦側で1.3mmになるように調整しました。

弦高の測り方

④オクターブ調整

弦高調整までが完了したら、オクターブ調整に移ります。

オクターブ調整は、開放弦の音に対し12フレットの音がちょうど1オクターブ上になるようにサドルの位置を微調整することで行います。12フレットの音が高い場合はサドルをボディエンド側に、低い場合はサドルをネック側に移動させます。

フロイド・ローズの場合、一般的なブリッジのようにイモネジでサドルの位置を微調整する機能がありません。

そのため一度弦を緩めてからサドルマウント・スクリューを2.5mmの六角レンチで緩め、サドルを目測で移動させ、再度チューニングしてオクターブチューニングを確認して下さい。

サドルマウント・スクリューを緩めてサドルを動かす

当然目測での調整となるため、精度を出すためにはオクターブチューニングが合うまでそれを何度も繰り返す、ということを各弦で行わなければなりません。

つまり、フローティング調整、弦高調整、オクターブ調整、その全てで同じ作業を、正しい状態になるまで、何度も繰り返す、ということになります。それゆえフロイド・ローズの調整は大変とされているのです。

ちなみに、イントネーション・アジャスターを使うと一般的なブリッジと同じようにオクターブ調整が可能になるため、手間を大幅に減らすことが可能です。

イントネーションアジャスター使用時

完成

最後にロックナットを締め、ファインチューナーでチューニングを微調整して作業は終了です。お疲れ様でした。

ロックナットを締める
作業完了作業完了

さいごに

フロイド・ローズは非常に画期的なブリッジですが、その魅力を最大限引き出すには適切な調整が必須となります。ぜひフロイド・ローズの調整をマスターして、派手なアーミングで演奏の幅を広げましょう。

フロイド・ローズ最高!!

執筆者:Miha

ギター歴11年。
モダンでマニアックなギターが好き。
日々ギターについて研究中。
某大手楽器店にてリペアスタッフとして勤務した経験を活かして発信中。

愛器:Ibanez RG、MusicMan JP15、Skervesen Raptor、Mayones Regius、Lespky F Model、Fender Stratocaster、Gibson Les Paul Custom、Gibson ES-335、Paul Reed Smith Custom24

ABOUT ME
監修・執筆:稲垣 健太(ケンタトニック)
ギター辞典コード辞典ボイトレ・音楽用語辞典の運営者。

音楽関係の仕事の経験、ギター製作の経験、音楽教室に通った実体験をもとに、音楽に役立つ情報を発信。

■音楽歴
中学2年生の時にギターを始める
高校1年生の時にドラムを始める
関西外国語大学外国語で軽音楽部に所属し、ボーカル、ギター、ベース、ドラムを演奏
39歳からボイトレに通い始める
42歳でギタークラフトを始める
└2023年4月にギタークラフトの専門学校・ESPギタークラフトアカデミー大阪校(GCA)に入学
└ギター製作やリペアの専門技術・専門知識を習得中(2023年〜現在)
└ギター製作の経験をほぼ毎日日記で更新
ギタークラフト製作日記

■音楽関連の仕事歴
[2006〜2009年]
大手CD・レコード販売店でロック、ジャズの仕入・販売を担当。
[2011年〜]
フリーランスのWebライター・Webディレクターとして開業。
大手音楽教室からの委託でボイトレサイトの運営、ボイトレ記事の執筆・編集に携わる。

■音楽教室の通い歴
[1995〜2000年まで]
某大手ギター教室に通う
[1997〜2002年まで]
某大手ドラム教室に通う
[2020年〜現在]
某大手音楽教室のボイトレ・話し方コースに通い中
ESPギタークラフトアカデミーにて月3回プロギタリストによる演奏授業を受講

■愛器
Stilblu #036 / #039 /#099
g'7 special(g7-TLT Type 2S)
Nashguitars S-57
Tom Anderson(Drop Top Classic -Deep Tobacco Fade)
TMG Gatton Thinline
Fender Custom Shop 1956 Stratocaster NOS
Gibson USA Exclusive Model / Les Paul Standard 60s Honey Lemon Burst

所有ギター一覧

■製作したギター
ギタークラフトアカデミー第1作目:
ポリゴンライン
ギタークラフトアカデミー第2作目:
Stand-Alone
ギタークラフトアカデミー第3作目:
Thin-Marauder
ギタークラフトアカデミー第4作目:
Focus Point
ギタークラフトアカデミー第5作目:
Uroboros LP

■好きなバンド
U2、Sigur Ros、THE 1975、Mr.Children、the band apart、くるり、SIAM SHADE、VAN HALEN

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