音楽におけるフェイクとは、本来のメロディラインに少し変化をつけて歌ったり演奏したりすることを指す。フェイクは基本的なメロディラインは外さず装飾的に変化をつけるテクニックで、原曲にないメロディを演奏する「アドリブ」とは異なる。
フェイクは歌唱をはじめ、ギター、ピアノ、サックスなど、楽器全般で使われるテクニック。メロディ(音程)に変化をつけることを「メロディフェイク」、リズム(符割)に変化をつけることを「リズムフェイク」、歌唱でこぶしなどの細かい装飾音を加えて変化をつけることを「装飾音フェイク」と呼ぶ。
たとえばライブでは、フェイクを入れることで感情表現をしたり、音源とは違ったライブ感を演出したりする効果が生まれる。意図的に曲のスケールやコードトーンから音を外すフェイクもあるが、使い所を間違えるとただの不協和音になったり音を外したと思われたりするので注意が必要。
※英語で「フェイク(Fake)」は「だます」「欺く」といった意味で、スポーツで相手を惑わせる「フェイント(Feint)」と同義の意味を持つ。
フェイクとアドリブの違い
フェイクは原曲のメロディラインに沿って演奏することを守りつつ、部分部分でメロディやリズムを変えたり、意図的に少し崩したりして演奏するテクニック。ライブで言うと、音源に沿って歌いつつも、あえて部分的にリズムを少し外して歌うといった行為がフェイクにあたる。
対して、アドリブは「即興演奏」という意味で、歌で言えば、原曲のメロディラインにないメロディを即興で歌うことを意味する。たとえばライブで、曲のエンディングに即興でメロディを作って歌うといった行為がアドリブにあたる。
別の言い方をすれば、曲のメロディラインの原型があるのがフェイクで、原型がないのがアドリブ。原型がわからなくなるほど崩して演奏した場合は、フェイクというよりアドリブに近くなる。
こちらはミスチルの『名もなき詩』のHOME TOUR 2007でのライブ演奏。たとえば1番の歌のAメロで、原曲では「ソーミソミソシーレソーレ」と歌うところを、このライブでは「ソーミソミソシーレドソーソ」というフェイクを加えている。そのほかにも、1音だけ1オクターブ高くしたり、半拍早いタイミングで入ったり、随所にメロディやリズムのフェイクのテクニックが使われている。
フェイクとアレンジの違い
アレンジは広く「編曲」のことを指し、楽曲を異なった演奏方法や編成に変えることを指す。たとえば、バンドサウンドの楽曲をアコースティックに編曲したり、楽曲のリズムを変えて異なる雰囲気に編曲したり、原曲から異なった形態の曲に変えることをアレンジと呼ぶ。
アレンジした楽曲では、原曲のメロディやリズムを変えることもしばしばある。改編に伴ってメロディやリズムが変わっているのであれば、それはフェイクではなく、アレンジと呼ぶほうが正しい。しかし、たとえば改編によって新しく音源化されたアコースティックバージョンなどをライブ演奏する際、そこに少しメロディに変化を加えたなら、それは部分的にフェイクと呼べるだろう。
こちらは『名もなき詩』のDome Tour 2019の演奏。こちらはライブ用にアレンジされたもので、1番がアコースティックに編曲されており、歌のメロディやリズムもアレンジが加えられている。HOME TOUR 2007では原曲に基づいた演奏で歌にフェイクを加えていたが、こちらは演奏そのものがアレンジされている。